侵食の風景 ー 花見景

2019年

侵食の風景— 花見景/2019/1200×600×20mm/アルミニウム、UVプリント/

GlogauAIR Showcase Gallery /ベルリン、ドイツ

日本からクロイツベルグに到着した4月は、川沿いの桜が満開だった。私の母国と同じように桜の木の下でピクニックする人たちを見て、ここに時空の異なる日本の春の風景を挿入したいと思った。春を楽しむ人たちが描かれたこの風景は、17世紀頃日本の骨董の絵皿に描かれたものーもしかしたらオリジナルは中国かもしれない。いずれにしても無名の職人によって描かれた無名の風景である。

街の風景は多くの人との関係で作られ、人もまたその人が関係した風景によって作られてきたと私は考える。それはこの絵皿に描かれているような、無名の人々の無名の関わりの折り重なりであり、それらはあまりにも日常的で目に止まらない。この作品では木の下でピクニック、という人類の普遍的とも言える行為を軸に、異なる文化的背景と時代の表現を置くことで、違和感を伴うエアポケットのような空間を作り出し、風景の中に埋没した時間や個人などを浮上させたいと思う。

私は写真の一部を見えなくすることで、不可視なvoidを持つ風景を作りたいと考えている。歴史が陽の当たる部分と、それ以外の埋もれていた部分でできているように。それを見るにことの困難さは、現代の風景に無名の時間事象の折り重なりを見る困難さに似ている。しかし同時にvoidは今を映し出し、新しい視点を風景に向けるための装置にもなるのだ。