本間 純

ステイトメント

東京郊外の住宅街で生まれ育った私の原風景は、高度経済成長期に開発され変化した街にある。年を追うごとに、周囲の自然がアノニマスで均質な風景に変化していった。その後のvoidには、かつてそこにあった風景が、目に見えない残像のように残っているようだった。そのvoidに飽きることなく空想を投影していた記憶が私の制作のベースになっている。空想を投影していたvoidは見えるようで見えないものであり、そこからだんだんとこの世に存在する事象は可視化されたものと不可視な要素で構成されていると考えるようになる。そして、視覚芸術においてとりわけ「見えない」ものは想像力を拡張する大きな源と確信するようになった。

そもそも世界は「不可視性」に充ちている。それは広大な領域におよび、より今日的な問題と繋がっている。例えば素粒子、放射線、電磁波など科学的に解明されているもの。時間や間のような概念や意識から生じるもの。またそれは歴史、制度、社会構造を構成する表出しない力などである。しかしながら現代では「不可視性」に対する意識は、際限なく生み出される「可視」情報に埋もれ、より感知し難くなっている。それゆえ私は、この世界を取り巻く様々な「不可視性」を視覚芸術として浮上させていきたいと考えている。

1997年発表の「Rope」(機械で回転する縄跳び縄が余白を生み出し続ける彫刻シリーズ)以降、私は不可視=voidを作り出すことで観者のイマジネーションを拡張する作品を発表してきた。2000年以降は森、海、川、橋、プールなどのパブリックスペースで、場所が包含する不可視な要素を取り込んだサイトスペシフィックな作品を発表してきた。
また国内外を問わずその土地に表出する不可視的な要素(歴史、出来事、かつてあった生活や文化)をリサーチし、独自の方法で写真彫刻のシリーズを発展させてきた。

近年は、新たな作品シリーズに取り組んでいる。”Now and Things”と名付けた。日常的な風景のイメージや、置物や椅子などの既存のobjectなどが消滅していき、更にその消滅から新たな事物の生成に接続される様が一つのタイムライン上に現前される彫刻(インスタレーション)である。原点に還り、ここでは彫る、削るなどのアナログで彫刻的なアプローチを用いている。本来は不可視である時間そのものを顕在化させるこれらの試みは、「即今」という禅語にヒントを得た。それは「移りゆく時間のほかに永遠はなく、永遠とは絶対的な「今」である」という意味である。事物が生成された始まりとしての過去、今ある姿としての現在、消滅や崩壊を予感させる未来の「即今」に対峙する時、人は何を見るのだろうか? 芸術や宗教の始まり、科学とテクノロジーの発展、戦争や環境破壊、そして未来にどのような世界の姿を重ね合わせるであろうか。
私は、取るに足らない日常や事物が辿る過去や未来の「即今」を現前させる試みが、美術史や文明を俯瞰し、新たな視点や考察にも接続されていく、そんな荒唐無稽な妄想を具現化したいと考えている。

本間 純

1967年 東京生まれ
1990年 多摩美術大学 立体デザイン科卒業
2019年 文化庁新進芸術家海外研修制度特別研修員としてベルリンに滞在

[受賞、助成]
2019 助成 平成30年度文化庁新進芸術家研修員/ベルリン・ドイツ
2015 台湾 台南市・国立成功大学でのパブリックアートコンペ(当作品含むアート計画) 実施案 一等
2011 台湾 宜蘭市・国立宜蘭大学でのパブリックアートコンペ(当作品を含むアート計画) 実施案 一等
2000 第一回大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2000 津南町作品公募一等入選

[アーティスト イン レジデンス]
2019 MAMMAプロジェクト/セジョンアートセンター / 世宗市・韓国
2019 国際アーティストインレジデンスプログラム/GlogauAIR / ベルリン・ドイツ/助成 文化庁新進芸術家海外派遣制度
2018 国際アーティストインレジデンスプログラム/Srishti Interm( シュリシュティ インタラム)/助成 ジャパンファンデーション/バンガロール・インド
2012 国際アーティストインレジデンスプログラム – フライオーバー・ヨコハマニラ/助成 ポーラ ファンデーション、ジャパンファンデーション/98B コラボレイトリー/マニラ・フィリピン

主な個展

2023年「Now and Things」eitoeiko/東京
2021年「I saw a landscape」bononkyoto (KYOTOGRAPHIE KG+)/京都
2020年「I saw a landscape」void+/東京
2019年「侵食の風景」GlogauAIR ショーケースギャラリー/ベルリン、ドイツ
2018年「侵食の肖像‒バンガロール」(Srishti Interim)ランゴールメトロアートセンター/バンガロール、
インド
2015年「無名の国」TRAUMARIS/SPACE/東京
2010年「Breeze‒旅」横浜市庁舎 市民ホール/神奈川
2009年「そして川は流れる」黄金町エリアマネージメントセンター/神奈川
2007年「Breeze‒4本の旗」ギャラリーキャプション/岐阜
2006年「Breeze‒ステートメント」ギャラリーキャプション/岐阜
2005年「Horizon」ギャラリー現/東京
2004年「Around」ラ・ガルリ・デ・ナカムラ/東京
2003年「Midori」(新世代への視点・テンエレメンツ)ギャラリー現/東京
2001年「Chattering」ギャラリー現/東京/「Welcome in」デスペラード/東京
1999年「Pass」ギャラリー現/東京
1998年「There」ギャラリー現/東京
1997年「Rope」ギャラリー現/東京
1996年「Pin」ギャラリー現/東京
主なグループ展
2022年「極寒芸術祭」/弟子屈町、北海道
2021年「桜を見る会」eitoeiko/東京
「極寒芸術祭」/弟子屈町、北海道
2020年「みえないものからみえるもの」天王洲セントラルタワーアートホール/東京
2019年「チェンナイフォトビエンナーレ 2019」ドライペット鉄道駅/チェンナイ、インド
2017年「空気の正体」川口市立アートギャラリー・アトリア/埼玉
「ヤングアート長岡」/長岡市街、新潟
2016年「弟子屈極寒芸術祭」/弟子屈町、北海道(2017, 2018, 2019, 2020)
2014年「越後妻有雪アートプロジェクト」まつだい農舞台/新潟
2013年「瀬戸内国際芸術祭 2013」/香川県、岡山県
2012年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2012」/新潟
「フライオーバーYOKOHAMANILA」/フィリピン、横浜
2011年「AOBA+ART」たまプラーザ駅周辺住宅街/横浜市、神奈川
「黄金町バザール 2011」神奈川
「宜蘭パブリックアートプロジェクト」宜蘭市、台湾
2010年「越後妻有雪アートプロジェクト」まつだい農舞台/新潟
2009年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2009」/新潟
「水都大阪 2009」/大阪
「TAMAVIVANT 2009」多摩美術大学/東京
2008年「黄金町バザール 2008」/神奈川
「AOBA+ART」たまプラーザ駅周辺住宅街/横浜市、神奈川
2007年「Happy Hours」Zaim Underground/神奈川
2006年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2006」/新潟
2004年「MUSELAND 2004 」北海道立近代美術館/北海道
2003年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2003」/新潟
2001年「青葉トリエンナーレ 2001」/神奈川
2000年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2000」/新潟
1999年「ジャパンアートスカラシップマケット展」スパイラルホール/東京
1996年「Morphe ‘96」/青山、東京
1992年「Encountering the others」/ハンミュンデン、ドイツ